相貌失認の人は人を名前で呼ぶことができない
相貌失認のソボは、矯正メガネで相貌失認が矯正されるまでは、人を名前で呼ぶことができませんでした。
誰が誰だかわからないので、ムリもありません。
それでは人に用事があるときは、一体どのようにしてきたと思われますか?
その答えはこうです。
「ねえ」や「ちょっと」と呼びかけることで、相手に気づいてもらえるようにしていました。
でも呼びかけても、相手がどうしても気づいてくれない場合もあります。そのようなときは、ソボが認識できる場所(相手の背中や肩や手など)を人差し指で軽くトントンと叩くことによって、気づいてもらうようにしていたそうです。
なんと幼稚園から高校までの14年間、ずっとそのようにして、人の名前を呼ばずにやり過ごしてきました。本当によくそれでやって来れたなぁ、と思います。名前が分からなくても、何とかなるものなのですね。
ですが人の名前と顔がわからないソボでも、時々、クラスメイトの話をすることがありました。
そんな時は大体いつもこのような感じで話し始めます。
「花ちゃん、ってみんなから呼ばれている人が~」
「田中、っていう人が~」
「たぶん大ちゃん、っていう人だと思うんだけど~」
・・・・・・・???
ん?何か変だぞ???
いつも私は、ソボの言葉に違和感を覚えていました。
最初の1回目の紹介はこれで良いかもしれませんが、ソボの場合は一年中そのような感じで言うのです。なぜいつまでたっても「~という人」が抜けないのでしょうか。
そこでソボに花ちゃんの名前を聞いてみます。すると毎回「知らない・わからない」と言います。ソボはクラスメイトのニックネームと名前が一致していないのです。
このようなやり取りが、毎年、毎年、毎年、繰り返されました。
一体いつになったらクラスメイトの名前を覚えるのだろう。でも子供の成長は人それぞれ。この子は他の人よりも幼いのだ。そう考えて、来年こそ、来年こそ、と気を長くして待っていましたが、ついにそんな日がくることはありませんでした。
今思えば、私もかなり呑気な方なのですね。(笑)
なんとソボは私のことも「この人、私の母親、っていう人なんだ~」と言っていました。私はそのセリフを聞くたびに、何だかとても悲しい気持ちになったことを覚えています。
それでも根気よく待ち続けた結果、ついにソボは17歳になってしまいました。
そこでやっと、ソボが相貌失認だということが判明したわけなのですが、人を名前で呼べなかったソボの言動に、やっと納得がいきました。
皆さんの周囲で、人を名前で呼ばない人はいませんか?
もしかしたらその人は相貌失認かもしれない、なんてことがあるかもしれませんね。
ご精読ありがとうございました。