どうやって走ればいいの?相貌失認の徒競走①
相貌失認の人は、奥行きが分かりません。
世の中がぺったんこに見えます。
距離感が全くつかめません。
そのため学校生活の至る場面で、不都合なことが起こります。
例えばどこの小学校でも、毎年秋になると運動会が行われます。
そんな時に困るのが徒競走です。
ヨーイドン!(パンッ!)
耳に頼る生活をしている相貌失認の人は音に敏感です。連続して聞こえるピストル音が怖くて、ソボはいつも耳を塞いでしゃがみこんでいました。
ですが相貌失認の人でなくても、スタート時のピストル音はドキドキしてイヤなものではないでしょうか?
俊足の子ならワクワクするかもしれませんが、鈍足の私にとってピストル音は、決して愉快な音ではありませんでした。
勉強が苦手な人はさらし者にされないのに、運動が苦手な人はなぜ、保護者・先生・全校生徒の前でさらし者にされなければならないのか?
私はいつもそんな風に感じていましたから、毎年の運動会を恨めしく思っていました。
そして運動音痴の私は、このように運動会を恨みつつも毎年休むことなく、高校卒業までの12年間、さらし者の役割をきっちり務めさせて頂きました!(笑)
さてさて、小学校の徒競走と言えば
低学年は50m。
中学年は80m。
高学年は100m。
と大体決まっているのではないでしょうか?
学年が上がるにつれて「距離が長くなる~」と子供たちは感じるかもしれませんが、相貌失認のソボは、そうはいきませんでした。
距離感がつかめないため、50mも100mもゴール地点は全く同じに見えます。
その上、ラストスパートをかけるタイミングもわかりません。
あれれ?みんな急に頑張り始めたぞ?もしかしてゴールが近いのかな?
と気付いたときはすでに遅し。
ほんの1~2秒気づくのが遅れただけで、追い越すチャンスはすでにありません。
他の走者は、かなり前方にいるからです。
仮に早目にスパートのタイミングに気がついたとしても、前方にいる走者が、どのくらい自分と離れているのか見当がつきません。
あとどのくらい頑張れば追い越せるのか、という判断ができないのです。
それじゃあ、とにかくやみくもに全速力で走ればいいじゃん!と思われるかもしれませんが、距離感がつかめない以上、全速力で走るのは危険です。近いのか遠いのかわからず、前の走者とぶつかってしまう可能性があります。
このような理由で、ソボの毎年の徒競走の順位は、ほどんどビリでした。
「フザケているわけではないのに、なぜこの子は思い切り走ろうとしないのだろう?」
当時ソボが相貌失認だと気付いていなかった我々は、いつも不思議に感じていました。
もしあなたの周囲で全速力で走ろうとしない人がいたら、もしかしたらその人は、相貌失認だった、なんてことがあるかもしれませんね。
ご精読ありがとうございました。