相貌失認の避難訓練 ひとりぼっちの楽しい教室
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どこの小学校でもあると思いますが、ソボの学校では毎年避難訓練が行われていました。
模擬の災害が発生したら全校生徒が速やかにグラウンドに集合し、通学班別に並んで保護者のお迎えを待ちます。そして先生が生徒の点呼をとり、無事を確認したら保護者に引き渡します。
以上が避難訓練の一連の流れとなります。
事件が発生したのは、ソボが小学1年生の避難訓練の日のことでした。
ソボにとっては初めての避難訓練です。
私は上の子とソボを迎えに行くために、予定より早めに学校へ向かいました。グラウンドに着くと、保護者の数はまばらでしたが、生徒はすでに通学班別に並んでしゃがんでいました。
地区名が書かれた看板を頼りに目をこらしていたら、すぐさま上の子が見つかりました。でもソボの姿はそこにはありませんでした。トイレかな?と思っていると、遠くで先生が慌てた様子でソボの手を引きながら、こちらに向かって走っている姿が目に入りました。
「こんにちは。いつもお世話になっております。」
私は呑気ににこやかに挨拶をしたのですが、さっきまで走っていてゼーハーしている先生の方は、そうはいきませんでした。
「ソボちゃん、教室で一人でいたんですよ!!ソボちゃんがいないから大変だ、ということで、先生方みんなで校内を探しまわっていたら、一人教室で本を読んでいたんですよ!!」
と息を切らしながら早口でおっしゃいました。
ええ??教室で一人で本!?私はギクッとしました。
「お手数をおかけしてっ!大変申しわけありませんでしたっ!それでは失礼致します。」
私は平身低頭して先生に謝りました。そして恥ずかしさのあまり、子供たちの手をパッとひったくると、長居は無用とばかりにそそくさと家に帰りました。
家に着くと、早速ソボに状況を聞いてみることにしました。状況次第では説教です。恐らく私は鬼の形相をしていたと思います。ところがソボは嬉しそうに言いました。
「本を読んでいたら静かだなー、こりゃいいやーて思ってたけど、みんなもどっかで遊んでるんだなって思ってた。一人だって思わなかったんだもん。その辺に何人かいると思ってたんだもん。」
つまりソボの話によると、避難訓練の間、静かな教室でゆっくり読書タイム(実際には虫図鑑)を楽しんでいたけど、誰もいないということに、全く気がついていなかった、ということらしいのです。
「誰もいないことに気がつかない」という話は、幼稚園に入園した年にもありました。
ソボの話を聞いて私は困惑しました。またか、という感じでした。
誰もいなくなったことに気づかないほど集中して本を読んでいたのか、それとも他に原因があるのか。
私は頭の中で一生懸命考えをめぐらせましたが、どうしても分かりませんでした。そしてソボにどのように注意すればよいのか、分からなくなりました。
とりあえず「今度からみんなの動きをちゃんと見て、気をつけなさいよ」とモゴモゴ言う他ありませんでした。
実際ソボが「誰もいなくなったことに気づかなかった原因」は、相貌失認だったからなのですが、当時は分かるわけもなく、本当に呑気な子だなぁ、という笑い話で終わってしまいました。
そして幼稚園のときと同じく、一度注意すると、翌年から避難訓練でソボが問題を起こすことはなくなりました。
ですが今こうして思い返してみると、誰もいない静かな教室で大好きな虫の図鑑をながめながら、満足そうにしている小さなソボの姿が目に浮かぶのです。
その姿を想像すると、何やらほほえましい気持ちになるのは、私が年をとってしまったからなのでしょうか。
誰もいない教室は、さぞかし快適だったことでしょうね。