合成と想像と知識だけで描く相貌失認の絵の描き方
ソボの描く絵はすべて「合成と想像と知識」だけで描かれています。
ソボの小学校では毎年、校内絵画コンクールがありました。
1~4年生までは、虫の世界や未来の世界など、あらかじめ決められたテーマで絵を描きます。ところが5年生以上になると、写生をします。
学校から歩いて10分くらいのところに緑豊かな公園がありました。ソボの学校では5年生になると、毎年そこで写生を行います。
でも5年生になったソボは困っていました。なぜなら4年生までは自分の想像の世界だけで絵を描くことができたのですが、今回は自分の見た通りの絵を描かねばなりません。
相貌失認のソボにとって、それはとても難しいことでした。どこを見ても風景の断片にしか見えません。(過去記事 相貌失認の見え方の特徴①②③参照)それを見ながら1枚の画用紙に写して描くのは大変です。もはや写生自体は不可能なことでした。
だからソボは「合成と想像と知識」を駆使して絵を描きました。それではそれぞれ詳しく説明していきたいと思います。
合成と想像で描く
相貌失認の人は、風景全体が認識できません。そこで風景全体を把握したいときは、ある工夫が必要です。その工夫とは、認識した断片を一つ一つ思い出しながらパズルピースをはめるようにつなぎ合わせ、頭の中で全体像を想像します。ですがその全体像が実物のものと同じ形をしているかどうかは分かりません。あくまでも相貌失認者の想像上のものにすぎません。
つまりすべり台を例に分かりやすく図解すると、このような感じになります。
すべり台全体を把握するためには、上下左右に何度も視線を走らせ、認識した断片を記憶しながら合成していかねばなりません。
このようなわけで、遊具を描くことはソボにとって骨の折れる作業となります。殆どの生徒が遊具を写生対象に選ぶ中、ソボは遊具ではなく、遊んでいる子供たちの姿を想像して描くことを選択しました。
知識で描く
相貌失認の人は細部ばかりを見て過ごしています。そのため子供でも当然知ってるであろう知識であっても、知らないか誤解して記憶していることがよくあります。
例えば「影」です。我々は明るい所に出ると、後ろに影ができるということを幼いころから知っています。ですが5年生のソボはそのことを知りませんでした。ソボの記憶の中では「人や物体の後ろには、太陽や明かりとは反対側に黒いものがある」という知識しかありませんでした。影という概念はありませんでした。
そのため「人や物体の後ろを黒く塗ればいいんだ」という知識だけで色を塗りました。
まとめ
ソボの描いた絵は、実際に目で風景を見ながら写しとって描いた絵ではありません。「合成と想像と知識」だけで描いた絵です。
実はこの話には続きがあります。ソボは絵を完成させた後、誤って絵の具のついた筆を絵の端っこに落としていましました。それでしかたなく、仕上げとして絵の周りを黒く縁取りました。
そのときの絵がこちらになります。
上手な絵とはいえないかもしれませんが、すべての人物や物体に、同じ方向に黒いもの(影)が塗られています。よく見ると草木・土・看板などの色が、濃かったり薄かったりしていて、相貌失認らしく細部にこだわって描かれていることがわかります。
そしてなぜかこの絵は学校代表に選ばれ、約20からなる市町村の学校代表だけで出展される美術コンクールで1位の賞を頂きました。
ソボにとってこの絵が、思い出深い作品となったのは言うまでもありません。
相貌失認であることも悪くない、と思えた出来事の一つとなりました。